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東京地方裁判所 昭和47年(行ウ)119号 判決 1975年1月31日

原告

五十嵐喜吉

右訴訟代理人

伊達秋雄

外六名

被告

関東郵政局長

江上貞利

右訴訟代理人

藤堂裕

外六名

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

(請求の趣旨)

一、東京郵政局長が原告に対してした昭和四六年九月一一日付停職四月の懲戒処分を取り消す。

二、訴訟費用は、被告の負担とする。

(請求の趣旨に対する答弁)

主文と同旨

第二  当事者の主張<前略>

(抗弁)<中略>

四、昭和四六年五月一六日の件

1  午後一時二三分ころから午後一時二九分ころまでの間、原告は、蕨郵便局郵便課職員約二〇名とともに、無許可で同局構内郵便発着台前に集合し、小林課長の再三にわたる解散命令を無視して同構内で示威行進をした。この間、午後一時二五分ころ、原告は、右郵便発着台前において、シュプレヒコールの音頭をとり、「泥棒管理者追放」、「小包請負化撤回」、「無能管理者追放」、「二名配置をやめよ。」とそれぞれ三回ずつ全員に高唱させた。

2  午後四時一三分ころから午後五時五七分ころまでの間、原告は、郵便課職員二十数名とともに、局長室前廊下に集団で坐り込み、小林課長の再三にわたる解散及び退去命令を無視して庁舎内で示威行進をし、解散しなかつた。この間、午後五時四四分ころ、原告は、音頭をとつて、「局長、団交開け。」、「庶務課長は誠意を示せ。」と右職員らに高唱させた。

五、昭和四六年五月一七日の件

午後五時二〇分ころから午後六時一六分ころまでの間、原告は、蕨郵便局職員約五〇名とともに局長室前廊下に集団で坐り込み、小林課長の再三にわたる退去命令を無視してこれに従わず、この間、全逓歌の合唱、シュプレヒコールをした。<六、省略>

七、昭和四六年五月一九日の件

午後五時二分ころから午後五時四〇分ころまでの間、原告は、蕨郵便局職員約二〇名とともに、同局構内において、無許可で集合して示威行進をした後、小林課長の再三にわたる解散命令を無視して同局庁舎正面の公衆前出入口付近に集団で坐り込み、この間、午後五時八分ころ、原告は、音頭をとつて、「団交開け。」と右職員らに高唱させた。<八、以下省略>

理由

(原告の地位及び本件処分の存在)

原告が蕨郵便局に勤務する郵政事務官であること、行政機構上被告の前身であつた東京郵政局長が昭和四六年九月一一日付で原告を国公法八二条によつて停職四月の懲戒処分(以下「本件処分」という。)に付したことは、当事者間に争いがない。

(本件処分の事由について)

一本件トラブル発生に至るまでの経緯

<証拠>によれば、次の事実、

すなわち、全逓信労働組合埼玉地区本部は、昭和四一年九月、支部組織の改編を行ない、従来の蕨支部は、川口支部及び鳩ケ谷支部とともに、川口地方支部として統合された。ところで、郵政省では、従来、組合事務室は一支部に対して一箇所を供与するという方針であつたので、右支部の統合に伴い、川口地方支部に対しては川口郵便局において組合事務室を供与することとし、同年一一月、蕨郵便局の組合に対し、以後同局においては組合事務室を供与しない旨通告した。ただ、蕨郵便局は、当時、新庁舎の建築中で仮設庁舎に移転していたが、同局の組合に対し、旧蕨支部の残務整理のため新庁舎が落成するまでの間に限り、仮設庁舎内の図書室を使用することを許可した。その後、新庁舎の落成が近づき、蕨郵便局長古屋太郎は、昭和四二年九月一〇日、同局組合員の代表者である川口地方支部書記長熊谷勝に対し、念のため同局においては組合事務室を供与しない旨通告した。それなのに、同局組合員は、新庁舎が落成するや、同年一〇月一六日、無断で新庁舎の図書室に組合の物品を搬入し、同室を占拠してしまつた。そこで、古屋局長は、同月一九日ころ、熊谷書記長に対し、右図書室内にある組合の物品を搬出するよう要求した。しかし、蕨郵便局の組合は、これに応ぜず、図書室で組合の打合せを行ない、事務机を置いて組合の事務を執り、組合文書、ビラ等を刷つたり、組合の状差しを壁に釘づけで取りつけるなどして組合事務室として図書室を使用し続けた。蕨郵便局長並木恒二は、昭和四五年七月以降、同局の組合に対し、本来の用途に使用するため図書室を明け渡すよう強く申し入れた。そのため、組合は、同年一〇月、他の組合支部との兼合いもあつてやむなくこれに同意し、以後組合が図書室を使用する場合には、庁舎等使用許可願を提出して当局の許可を受けることとなり、また、そのころから同年一二月にかけて、図書室内にある組合の物品を整理し、その一部は当局が預かり、その余は組合が他へ搬出して同室を明け渡した。

ところが、昭和四六年五月一二日午後四時過ぎから、蕨郵便局組合員が同局二階休憩室で無届け集会を行なつたので、解散命令を発するため庶務会計課長小林保二らが同休憩室に赴いたところ、組合が図書室から搬入したので同局庁舎内にはなかつたはずの前記状差しが壁際の机上に置かれているのが発見された。並木局長は、同夜、組合に通告することなく同局管理者に命じてこれを撤去させ、その中にあつた全逓新聞、情報類とともに、他に保管しておいた。

以上の事実を認めることができ、右認定をくつがえすに足りる証拠はない。

二昭和四六年五月一三日の件

1  <証拠>によれば、午前八時三分ころ、原告は、勤務時間中であるにもかかわらず、富田美治(全逓信労働組合川口地方支部執行委員)ら蕨郵便局郵便課職員約一〇名とともに、同局郵便課事務室の副課長席前にきて、同席で出勤簿等を検査していた郵便課長客崎文夫に対し、「郵便課長、休憩室の組合の状差しをどうしたのか。」「一体どうしたのだ。」などと大声をあげて抗議し、同課長の執務を妨害したこと、これに対し、宮崎課長は、「庁舎管理上撤去したのだろうから、庶務課長に聞いたらいいだろう。」と言い、就労命令を発したところ、間もなく騒ぎが収まつたことを認めることができ、<証拠判断省略>

2  <証拠>によれば、午前八時一三分ころ、原告は、勤務時間中であるにもかかわらず、富田美治ら郵便課職員約四〇名とともに、右副課長席付近に赴いた小林課長を取り囲み、富田や小沼勇らにおいて同課長に対し、「庶務課長、組合の状差しをどこに持つて行つた。」、「黙つて持つて行つたのは、かつぱらいだ。」、「泥棒だ、泥棒だ。」、「警察に電話をしろ。」などと大声をあげて抗議し、午前八時二〇分ころ、原告において解散命令を発した並木局長に対し、「無能管理者の言うことなんか聞かねえ。」と大声をあげて叫んだこと、このように騒ぎ立てて、午前八時一三分ころから午前八時二五分ころまでの間、原告は、並木局長及び宮崎、小林両課長の再三にわたる解散及び就労命令を無視して就労せず、約一二分間勤務を欠いたこと、午前八時二四分ころ、並木局長は、前記状差しの撤去につき右職員らの代表と話し合うと言い、午前九時三〇分ころから午前一一時過ぎころまでの間、局長室において、当局側の並木局長、小林課長、庶務会計課主事松本朗と職員側の熊谷書記長、富田執行委員との話合いが行なわれたことを認めることができる。

3  <証拠>によれば、午前一〇時一五分ころ、原告は、勤務時間中であるにもかかわらず、小沼勇ら郵便課職員約一〇名とともに、同課職員三浦信明に対して「三浦君、出発準備ができたらすぐ出発しなさい。」と命じた宮崎課長に対し、小沼において「他人の物を泥棒しておきながら出発しろとは何だ。出発なんとは何だ。出発なんかできるか。」、原告において「話がつかないのに山発しろとはおかしい。すぐ返して謝ればいいだろう。」などと抗議したこと、午前一〇時一八分ころから午前一〇時二〇分ころまでの間、原告は、右職員らとともに、宮崎課長から「就労しなさい。」、「出発しなさい。」と命ぜられたのに、これに従わず、同課長を取り囲み、口々に「すぐ返すように言つてこい。」、「早くみんなに説明しろ。」などと抗議して就労せず、約二分間勤務を欠いたことを認めることができる。

4  <証拠>によれば、前記局長室はおける話合いにおいて、並木局長は、組合の状差しを撤去した理由及びこれを返すことは言つたけれども、職員側の要求する謝罪や午前八時一三分ころからの欠務につき賃金カットしないと約束することを拒否し、話合いは物別れになつたこと、午前一時七分ころ、富田執行委員は、宮崎課長に対し、「局長室での話をして、みんな出発するよう説得するから、少し時間をくれ。」と申し出て、同課長の許可を得、熊谷書記長とともに、同局二階休憩室において、原告ら郵便課職員四十数名に対して並木局長との話合いの内容を説明する集会を行なつたこと、しかし、右職員らは並木局長の態度を不満として納得せず、短時間で集会が終わらないので、午前一一時三〇分ころ、宮崎課長は、全員に対し、集会を打ち切ねて直ちに就労するよう命じたこと、それなのに、原告は、右職員ら約四〇名とともに、宮崎課長の右命令に従わず、無許可で集会を続行したことを認めることができ、<証拠判断省略>

5  <証拠>によれば、右集会において、原告は、午前一一時三七分ころ、集会の状況を写真撮影した小林課長に対し、「何だ。その態度は何だよ。」と、午前一一時四〇分ころ、並木局長に対し、「持つて行つたのを元のところへ返せ。」と、午前一一時四四分ころ、同局長に対し、「なめるのではない。」とそれぞれ乱暴な口調で抗議し、更に、午後零時一〇分ころ、並木局長ら同局管理者の態度につき、「一言謝るべきだ。」、「泥棒の下で何が仕事ができるか。」と言つたこと、このようにして、午前一一時三〇分ころから午後零時二四分ころまでの間、原告は、並木局長及び宮崎課長の再三にわたる就労及び出発命令を無視して就労せず、約五四分間勤務を欠いたこと、この間、午前一一時五〇分ころ、並木局長は、松本主事に命じて組合の状差しをその中にあつた全逓新聞、情報類とともに返還させたこと、また、右集会の終りころ、並木局長は、山本健一ら郵便課職員の要求により、前記状差しの撤去につき右職員らの代表と再び話し合う旨及び勤務が終わる午後四時五分を過ぎてから全員に対して説明する旨を述べ、午後一時三〇分ころから午後二時四〇分ころまでの間、同局三階食堂において、職員らの代表である富田執行委員、山本及び原告と話し合つたこと、しかし、この話合いも物別れになり、その席上、並木局長は、前言を翻し、勤務終了後の全員に対する説明をしないと言つて拒否したことを認めることができ、<証拠判断省略>

三昭和四六年五月一四日の件

<証拠>によれば、午後四時五三分ころから午後五時一〇分ころまでの間、富田美治ら蕨郵便局郵便課職員約一〇名は、同局庶務会計課事務室に入室し、小林課長から「庶務は時間中ですから解散しなさい。」と命ぜられたのに、これに従わず、「局長は、四時五分にみんなの前で話し合うと約束したではないか。」、「局長を出せ。」などと大声をあげて抗議し、庶務会計課職員の執務を妨害したこと、この間、午後五時二分ころ、原告は、同事務室に入室して右職員らに同調し、小林課長に対し、「そのうち騒ぎが始まるよ。市民から苦情がくるよ。近所から苦情がきてからでは遅いよ。」と言い、午後五時三分ころに退室したことを認めることができる。

四昭和四六年五月一六日の件

1  <証拠>によれば、抗弁第四項1の事実を認めることができる。

2  <証拠>によれば、抗弁第四項2の事実を認めることができる。

五昭和四六年五月一七日の件

<証拠>によれば、抗弁第五項の事実(ただし「蕨郵便局職員約五〇名」とあるを「蕨郵便局職員約四八名」と訂正する。)を認めることができる。

六昭和四六年五月一八日の件

<証拠>によれば、次の事実、

すなわち、午後四時ころ、並木局長は、前日のような局長室前廊下における坐り込みなどをされないようにするため、蕨郵便局に臨局していた東京郵政局調査官渋谷君夫、同郵政局第二郵務部電気通信業務課業務係長有村周明、同郵政局第一人事部第一人事課郵政事務官上沢洋及び蕨郵便局貯金課長本多政治に対し、正当な理由のない者を局長室のある同局三階に上げないようにするよう指示した。

午後四時二〇分ころから、右指示を受けた渋谷調査官ほか三名は、同局二階の三階へ上る階段の踊り場に立つていたところ、午後五時ころ、同所にきた郵便課職員山本健一は、階段に向かつて右脇に階段を背にして立つていた有村係長に対し、「コーラを飲みに行くから通してくれ。」と言い、同係長から「昨日局長室前で坐り込みなどがあつたので、今日は駄目です。外で飲みなさい。」と断わられたことに激昂し、「今日は、おれは休みだ。あんたに命令される必要はない。」、「表へ出ろ。」、「差しで勝負しろ。」などと執ように抗議を続けた。そのとき、渋谷調査官は、上沢事務官と並んで右階段の下から第一段目に階段を背にして立ち、山本と有村係長とのやりとりに気を取られていたところ、突然、原告は、山本の後方から小走りでくるや、前かがみになつて右肩を突き出し、上沢事務官の左側(原告から見て)に腕組をして立つていた渋谷調査官の左胸部に体当りをした。渋谷調査官は、原告の右暴行によつて後方に尻餅をつき、一段か二段上の階段の角に腎部を強打し、加療約七日間を要する左腎部打撲及び腰部捻挫の傷害を負つた。

以上の事実を認めることができ、<証拠判断省略>

七昭和四六年五月一九日の件

<証拠>によれば、抗弁第七項の事実を認めることができる。

八原告の行為に対する法令の適用

1  第二項(昭和四六年五月一三日の件)関係

1の行為は、国公法一〇一条一項に違反し、同法八二条一号、三号に該当する。

2及び3の行為は、国公法九八条一項、一〇一条一項に違反し、同法八二条一号、二号後段、三号に該当する。

4の行為は、成立に争いのない乙第一八号証によつて認められる郵政省就業規則(昭和三六、二、二〇公達一六。以下「就業規則」という。)一三条七項「職員は、庁舎その他国の施設において、演説若しくは集会を行ない、又はビラ等のちよう付、配布その他これに類する行為をしてはならない。ただし、これらを管理する者の事前の許可を受けた場合は、この限りでない。」との規定に違反し、国公法八二条二号前段、三号に該当する。

5の行為は、国公法九八条一項、一〇一条一項に違反し、同法八二条一号、二号後段、三号に該当する。

なお、前認定の事実によれば、五月一三日のトラブルは、並木局長が前夜組合に通告することなく蕨郵便局管理者に命じて組合の状差しを撤去させ、その中にあつた全逓新聞、情報類とともに他に保管しておいたことに端を発し、そのことに対する郵便課職員ら(組合員)の抗議として起こつたものであることが認められる。しかし、右職員らが当局から組合の状差しを同局二階休憩室に置くことを承認されていたという事実については、これを認め得る何らの証拠もないから、右状差しは、本来、同休憩室に置くことができないものであつたのである。したがつて、かりに並木局長が組合に通告して任意にこれを撤去させた方が穏当であつたといえるにしても、同局長がそのような措置をとらず、当局側においてこれを撤去したうえ組合の所有物として一時保管しておいたからといつて、必ずしも不当な措置ということはできない。自らの非を柵にあげ、一方的に相手方を責め立てる原告らの抗議は、顧みて他を言うのそしりを免れない。のみならず、原告は、いやしくも国家公務員である以上、かりに当局側の不当な措置に対する抗議であるとしても、それは、国公法の規定等によつて認められる範囲及び方法によつて行なうべきであることは多言を要せず、これを逸脱する場合には、違法な行為としてその責任を負わなければならない。前認定のように、勤務時間中であるにもかかわらず、多数の職員とともに、執務中の上司に対し大声をあげて抗議し、その執務を妨害したり、上司を取り囲み、箸しく不都合な言辞を発して騒ぎ立てたり、あるいは上司の職務上の命令に反抗したり、これを無視して就労せず勤務を欠くとか、無許可で集会を行なうなどという原告の行為は、到底正当とはいえないものであり、国公法八二条各号に該当することはいうまでもない。

2  第三項(昭和四六年五月一四日の件)関係

第三項の行為は、国公法八二条三号に該当する。

前日、並木局長が前言を翻し、一たんは約束した勤務終了後の全員に対する説明を拒否したことは、前認定のとおりである。しかし、前認定の事実によれば、前日、並木局長は、原告らが行なつたような違法な抗議に対しては管理者として対応すべき法的な義務を何ら有しないものであるのに、勤務時間中、二度にわたつて郵便課職員らの代表と話し合う機会を作り、事態収拾のための努力をしている。この話合いはいずれも物別れになり、事柄の性質上、既に双方とも言うべきことも尽きていると考えられるから、それ以上、並木局長が自ら全員に対して説明したとしても、職員らを納得させることは困難であつたと推察される。しかも、その日の職員らの抗議の態様に照らすと、並木局長の全員に対する説明によつて、かえつて再び職場の規律、秩序を乱すような事態に陥ることも予想されなくはない。このような事情を考慮すると、並木局長が一たんは約束した勤務終了後の全員に対する説明を拒否したことをもつて、不誠実であると決めつけることは相当でない。この点をさしおくとしても、多数の職員による執務妨害行為に同調した原告の行為が、国公法八二条三号に該当することはいうまでもない。

3  第四項1、2(昭和四六年五月一六日の件)、第五項(同月一七日の件)及び第七項(同月一九日の件)関係

五月一六日の件は、原告が蕨郵便局郵便課職員約二〇名とともに無許可で同局構内郵便発着台前に集合し、解散命令を無視して同構内で示威行進をし、シュプレヒコールの音頭をとつた事実及び原告が同課職員二十数名とともに局長室前廊下に坐り込み、解散及び退去命令を無視して庁舎内で示威行進をし、シュプレヒコールの音頭をとつた事実、同月一七日の件は、原告が同局職員約五〇名とともに局長室前廊下に坐り込み、退去命令に従わず、全逓歌の合唱、シュプレヒコールをした事実、同月一九日の件は、原告が同局職員約二〇名とともに同局構内において無許可で集合して示威行進をした後、解散命令を無視して同局庁舎正面の公衆前出入口付近に坐り込み、シュプレヒコールの音頭をとつた事実にかかるものである。

ところで、郵便局施設は、国の営む郵政事業の用に供されるべき建物であつて、公用財産に属する国有の公物である。前記就業規則一三条七項の規定は、郵便局施設を公物設置の目的に供することによつて郵政事業の目的の達成に資するため、職員に対する職場の秩序維持に関する服務規律として、庁舎管理者の事前の許可を受けた場合を除き、郵便局施設における演説、集会、ビラ等のちよう付、配布その他これに類する行為をその目的、態様等の如何を問わ全面的に禁止したものである。また、郵便局長及びその委任を受けた管理者は、郵政大臣の権限に由来する公物たる郵便局施設の管理権を有するから、それが公物設置の目的に反して第三者(庁舎管理者から見て原告らも第三者である。)によつて無断使用される場合には、その目的に対する障害を除去するための措置、すなわち本件においては集団による示威行進、坐り込みの解散、退去を命ずる権限を有する。原告は、多数の職員とともに、無許可で、かつ、適法と認められる解散命令等を無視して、蕨郵便局施設において、示威行進、坐り込み、シュプレヒコール等をしたのであるから、これらの行為は、その態様において違法であり、就業規則一三条七項に違反し、国公法八二条二号前段、三号に該当する。

4  第六項(昭和四六年五月一八日の件)関係

原告は、何の理由もないのに、突然、階段に立つていた渋谷調査官の左胸部に体当りをして後方に尻餅をつかせ、同調査官に対して傷害を負わせるという乱暴、危険きわまりない暴力行為に及んだのである。他の職員の勤務時間中、職場内で、管理者の指示を受けて勤務中の職員に対しこのような暴行を加えたことは、職場の規律、秩序を著しく乱しものであり、全く弁解する余地のない行為である。この行為は、国公法九九条に違反し、同法八二条一号、三号に該当する。

5  以上の次第で、本件処分には被告主張のとおりの処分の事由が存在し、特に、第六項の暴力行為についての情状は極めて重いといわざるを得ないから、これと他の行為についての目的、態様等を合わせて評価し、被告が原告を本件処分に付したことは適法であり、懲戒権の行使につきその裁量を誤つた違法があるとはいえない。

(結論)

よつて、本件処分の取消しを求める原告の請求は理由がないので棄却することとし、訴訟費用の負担につき行訴法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(宮崎啓一 安達敬 飯塚勝)

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